桐下 義郎さん 四段審査小論文 2020.01.10

稽古法「入り身」と「転換」について                2020年1月10日

                            合気道幸徳会 桐下 義郎

 

 合気道と出会うまでの武道経験といえば、中学校の体育授業で「柔道」と「剣道」を教わった記憶しかない。社会人になってから合気道に出会い、今では稽古する立場だけではなく、指導する立場としての機会も頂いている。四段の審査を受けるにあたり、私なりに感じる稽古法について述べたいと思う。

 合気道との出会いは、地元の武道館で行われている「武道教室」。自分の子供に「心・技・体」の鍛錬に良いとされる「武道」を学ばせようと、付き添いで始めた事がきっかけだが、今日まで続けられている理由としては、独特な動きやそこからつながる技の数の多さだろうか。2009年に初段を取得してから心掛けている事がある。それは相手の「気」を感じ取り、合わせる事。これは、技に対する固定概念を取り除き、相手がその技をどう解釈しているのかを感じ取るために行っている。共感する部分もあれば、新たな発見にも気付き、理解できる部分を吸収し続けているように思う。

 

基本動作「入り身」「転換」

 

 合気道の基本動作に、「入り身」と「転換」がある。稽古では相手に手などを掴ませてから基本動作に入る稽古法と、相手の攻撃(正面打ちや横面打ち突きなど)から基本動作に入る稽古法がある。手を掴まれた状態から行う場合は、相手との間合いを気にせずに入り身・転換動作に入ることができるため、しっかりと入り身ができているか?転換ができているか?の確認をしながら稽古することができる。一方、攻撃からの入り身・転換動作は、間合いやタイミングを気にしながら行う必要がある。どちらも上達するためには必要な稽古法ではあるが、共通して言えることは、相手があっての稽古であるということ。合気道の稽古の多くは相手と組み、同じ動作を何度も繰り返す。相手も稽古しているため、技の型は取り方だけでなく、受け方も覚える必要がある。ここで様々な「気付き」を得ることから、各自課題が見つかり補正していく。組む相手の体格や経験、体調などから、毎回同じ結果になる事が無いことから、繰り返す動作(反復運動)には意味があるといえる。この繰り返し動作を長く続けることが、「頭で考えて動く=反応」ではなく、「無意識に体が動く=反射」に繋がる。

 

手を掴まれてからの「入り身」「転換」

 

 先にも述べたとおり、この稽古法は相手との位置関係や型を確認することができるが、視点を変えて掴み方にポイントを置いてみる。ガッチリ掴まれた時と柔らかく掴まれた時では、「取り」の感覚は明らかに違う。(ガッチリ掴まれた時を固い稽古、柔らかく掴まれた時を柔らかい稽古と呼ぶ)

合気道では、どちらの掴まれ方をされた場合でも同じ体捌きができるようになる必要がある。固い稽古で入り身・転換を行うとき、相手とぶつかって動けない時がある。経験の浅い人は、ぶつかると自分が行こうとしている方向を優先して腕全体に力が入り、半ば強引な体捌きとなり、結果として技も力任せのものとなってしまう。この力任せの

稽古は、私自身ももちろん経験している事で、今思えばこの経験があっての今があると感じている。合気道には、「呼吸力」という独特な表現がある。簡単に言うと、腕だけの力に頼らず、相手と気持ちを合わせて、気持ちが合った時に生まれる力。固い稽古では、この「呼吸力」を養うことができる。一方柔らかい稽古では、手を掴まれているにもかかわらず、相手とぶつかるような事が無く、入り身・転換をスムーズに行うことができる。この稽古法では、相手と「気」を合わせ、流れを感じ取りながら技をかける稽古だが、気を付けなければならないのは、「取り」は技が出来たと錯覚してしまう点。あくまでも「取り」は「気」の流れを意識しつつ、技を確認するための稽古。又、「受け」も相手と「気」を合わせるよう意識する。

 

攻撃からの「入り身」「転換」

 

 相手の攻撃からの「入り身」「転換」の場合、手を掴まれてからの稽古とは違い、一定の間合いから相手の攻撃に合わせて、入り身・転換を行わなければならない。そのため手を掴まれてからの稽古と比較すると難易度は少し上がる。とはいえ、固い稽古や柔らかい稽古と同様に、繰り返し稽古する必要がある。「取り」の攻撃に合わせて「受け」は入り身や転換動作を行う。いきなりこの動作の稽古もよいが、タイミングを掴む上でも初めは、「受け」が右手で正面打ちする構えの時、「取り」も右手を上げて交差させる。まずはこの形から入り身や転換動作を行うとよい。この時、「取り」は交差させた手を気にせず、入り身・転換する。この手を自分が入り身の際、邪魔だからと横に動かしてしまうと、正しい入り身・転換ではなくなる。慣れてきたら、正面打ちをする動作から入り身・転換を行う。ここで気を付けなければならないのは、「受け」はまっすぐに打ち込むこと。よくあるケースとしては入り身をするから、邪魔にならないよう初めから頭に当たらない場所へ打ち込む行為。これでは、お互いの稽古としては意味がない。又、「取り」も打ち込む前に入り身・転換動作に入るのもよくない。

こういった点から、攻撃からの「入り身」「転換」は難しい事がわかる。しかし、この動作も繰り返し稽古を行うことで習得できると思う。

稽古法を、合気道の基本動作「入り身」「転換」を例にして述べたが、まとめてみると以下のようになる。

・稽古法にはそれぞれ特徴があるので、メリットを生かした稽古を行う。

・「固い稽古」「柔らかい稽古」はバランスよく稽古する。

・「取り」に執着するのではなく「受け」にもこだわりを持って稽古する。

・先生の教えは、気付きのきっかけとして稽古に生かす。

・常に疑問やテーマを持ち続けて稽古する。

 

 合気道の技のほとんどが、「表と裏」「右と左」と一つの技で4種類から成り立っている。稽古では組んだ相手に対して、まず柔らかく受けを取り、相手がその技に対してどういう思いであるかを感じ取り、アドバイスできる事があれば伝えるようにしている。気持ちでも体調でも毎回動作の感覚、技のかかり方が変わることも多く、「これだ!」と思えても、次には同じ結果が得られない。それだけに繰り返しの稽古を重ね、道を進み続ける必要がある。

最後に、合気道は、試合が無い武道であるが故に、稽古の仕方次第で生涯現役も可能な武道である。この先も長く稽古し続けて、合気道の発展に貢献すべく微力ながら普及活動に力を注ごうと思う。

                                  以上


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